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昆明行き「空調快速」

私は昔から陸路移動が好きで、ユーラシア大陸とオーストラリア大陸は鉄道で、北アメリカ大陸はバスで横断したことがあります。

今回も、日程の制約のなかでなるべく陸路で移動してみたいと思い、上海から昆明まで約2400キロの長距離列車に乗りました。

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2400キロというと鹿児島-青森間の距離よりも長い。11月5日の午後4時すぎに上海を出て、7日の午前10時に昆明に到着するまで、40時間以上列車に揺られました。

と書くと大変な移動のようですが、軟臥(1等寝台)を使ったため、結構快適だったのです。これは2段ベッドの4人相部屋なのですが、ベッドのクッションがよく、内装も上品な感じです。中国の鉄道はもともと軌間(ゲージ)が広く、さらに線路の改良が進んでいるので、今では日本のブルートレインよりも乗り心地がいい。

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さて、5日夕方に上海を出て、しばらく車窓を見ていました。出発して20分くらいで市街を抜けると、30分以上ずっと工場や倉庫のような建物群が見えます。私は世界の様々な街を眺めてきましたが、これほどまでに近郊の工業地帯が続くのを見たことがありません。上海は広東省や福建省と並び、「世界の工場」中国の一大拠点。今回の私の持ち物は、衣類は言うに及ばず、デジカメやパソコンも中国製です。これらのいくつかはこの辺りで作られたのかもしれません。

日が暮れて食堂車で夕飯。私は食堂車が好きで、以前、東海道新幹線に二階建ての食堂車があった頃、よく使っていました。今、日本では寝台特急「北斗星」などごく一部しか食堂車が残っていません。

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この日の夕飯は「木耳焼肉」と「白飯」を注文。文字から推察した通りキノコが入った焼肉だったのですが、なかなかの美味でした。

夕飯の後、寝台車に戻ると李さんというおばさんが入っていました。彼女はソファーの販売員です。カタログを見せてもらったのですが、日本ではあまり見られない豪華で大きなソファーの写真が並んでいました。彼女は商魂たくましく「あなたもソファー買わないか?」と勧めてきたのですが、私は「不要、不要。私も日本で持っているよ」と笑ってお断りしました(ただし私の家で使っているソファーは、イケアで買った安物です)。

ひとしきりの筆談が終わったあとは、ベッドに横になって読書。松原久子「驕れる白人と闘うための日本近代史」(文春文庫)と、村上春樹「ノルウェイの森」(講談社文庫)を読んでいました。
松原さんの本を読むのは初めてですが、欧米諸国がいかに自分たちに都合のいい理屈で非欧米諸国を制圧・収奪してきたかが、きちんと検証されていて面白い。と、同時に自給自足で静かに暮らしていた江戸時代の日本が、欧米諸国の収奪に巻き込まれ、明治維新の後、自身も征服者側に廻った経緯も、自戒をこめて描かれています。
「ノルウェイの森」を読むのは久しぶりでしたが、しばし心が青春時代に舞い戻りました。

翌朝、目が覚めると、列車はのどかな田園風景のなかを走っていました。ここにきてやっと中国の原風景に出会えたのです。この日はほぼ一日中、車窓風景を見ていました。中国も沿海部の都市近郊を除けば、まだそれほどは発展していなくて、昔ながらの建物や人々の素朴な暮らしが見えてきます。

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前日の真夜中かこの日の明け方、2人の男性が乗り込んできました。多さん(写真向かって右)と安さん。多さんは経済公安の職員で、安さん(先ほどの寝台の写真で出ている寝ている男性)は建設師(施工)だそうです。

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多さんは43歳で、25歳の妻がいることをしきりに自慢していました。で、それを誇示するためか「結婚証」というのを見せてくれたのですが、なぜか彼の出生が1968年になっている。「あなた43歳でしょう?」と聞くと、「出生年月日なんて偽でもいいんだ、ガハハハ」と笑い飛ばすのです。日本でも何日か実際より出生日をずらす話は聞いたことがありますが、4年も誤魔化すことはありえない。学校はどうしたのだろうか、よくそれで公安職員になれたな、などと不思議に思ったのですが、安さん(41歳)も「そんなものさ」と言っていたので、中国では戸籍はアバウトなもののようです。

中国の長距離列車が日本の寝台特急と一番違う点は、服務員(乗務員)の多さです。昼夜交代で任に当たって起点から終点まで乗り通すのですが、23人もいるとのこと。これに列車公安(鉄道警察)や食堂車の担当もいるので、全部で30数人はいたと思います。

私の乗っていた軟臥車の担当で、ひとりだけ英語が少し話せる服務員がいました。胡さんという西南交通大学の学生で、実習で服務員をやっているそうです。彼女の出身が峨眉山の近くだとか、私が中国のどこに行ったことがあるかだとか、他愛もない話でしたが、おかげで退屈しないですみました。

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2日目の午後、列車は桂林に到着。列車内からも桂林らしいカルスト地形が見えました。

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その後は美しい夕焼けを見たり、隣室の小さな子供と遊んだり、隣室の中国系カナダ人と話をしたりしているうちに夜になり、食堂車でまた「木耳焼肉」を食べて、就寝。

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翌朝、目を覚ますと午前8時で、そこから昆明までの2時間はあっという間でした。

私は今まで何度か中国の長距離列車に乗ったことがあります。20年前、乗客は所構わずタバコを吸いまくり、ゴミは床や窓の外に投げ捨てたりで、マナーの悪さに驚いたものです。それが10年前にウルムチから西安までシルクロード特快に乗った頃から、マナーがよくなったことを感じました。今回、硬臥(2等寝台)や硬座(2等座席)も見てみましたが、20年前とは別世界でした。

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(硬臥)

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(硬座)

日本でも昭和30年代、終着駅に着いた列車の車内では、床にゴミが散乱していました。「衣住足りて礼節を知る」という言葉が中国伝来なのかは知りませんが、車内の快適さは生活レベルに比例するようです。
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プロフィール

浅井潤水(じゅんすい)

Author:浅井潤水(じゅんすい)
大阪生まれ、5歳より18歳まで奈良で育つ。大阪の大学を卒業後、東京の出版社に就職。総合月刊誌、写真週刊誌、ワンテーマ・マガジン、新書、文庫などの編集に従事した後、現在は知財・契約管理部門勤務。
おもな担当書に、下川裕治『格安エアラインで個人旅行が変わる!』、鳥塚亮『いすみ鉄道公募社長 危機を乗り越える夢と戦略』、松尾貴史『ネタになる統計データ』、小篠綾子『コシノ洋装店ものがたり』、吉田友和『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』、坂井優基『現役機長が答える飛行機の大謎・小謎』、三浦展・菊入みゆき『職場で“モテる”社会学』、碓井孝介『偏差値35から公認会計士に受かる記憶術』、『「男はつらいよ」寅さんロケ地ガイド』、週刊「昭和の鉄道模型をつくる」、ジミー大西『トーテンくんのオーケストラ』などがある。

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