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格安エアライン

12月1日から4日まで、格安エアラインの春秋航空に乗って上海へ行ってきました。
今回は、取材用の原稿なのでいつもと文体が少し異なりますが、ご愛読ください。
なお、2011年1月20日に下川裕治さんが書かれた『格安エアラインで個人旅行が変わる!』(講談社+α新書)という本が刊行されます。以下の原稿は、担当編集者である私が、実践編として執筆したものです。
同書で以下のレポートを凝縮した、3ページの記事が掲載されます。あわせてご愛読お願い申し上げます。


 東京の西はずれに住む私にとって、上海への格安エアライン旅行は、JR東京駅に隣接する八重洲南口バス・ターミナルが出発点となる。
 2010年12月現在、中国の格安エアライン「春秋航空」が乗り入れている日本の空港は茨城のみ。その茨城空港まで、東京駅から片道1時間半の高速バスが運行されている。現在は行政の補助金が入っているため、運賃は1000円で、航空便の予約が確認できるプリント・アウトなどがあれば、半額の500円で乗ることができる(2011年春以降の運賃は未定)。

 バス・ターミナルに向かう時、私は一抹の不安を抱いていた。事前に電話でバスの予約を入れようとしたところ、「満席です」と断られたからだ。
 バス便はあきらめて、JR常磐線で石岡に向かうことを考えたが、「高速バスなら、補助席があるのでは?」と、思い直した。バス会社に再度問い合わせたところ、「ありますよ」との答え。ただ予約係いわく「お客様は外国の方が多くて、荷物が大きいので、補助席でも乗れない場合があります。先日は、42インチのテレビを持ち込まれた方がいたそうですから……」とのことで、確信は得られなかった。
 中国人旅行客は総じて荷物が大きい。これまで中国を旅行した記憶から、山のような荷物を持って、列車やバスに乗り込む乗客の姿が目に浮かんだ。

 バスの発車時刻は午前10時。
「もしバスの通路が荷物で埋まってしまって、補助席に乗れなくても、上野駅を10時30分に発車する常磐線の特急に乗って、石岡から路線バスに乗り継げば、空港での搭乗手続きの時間には間にあうはず」
 と、思いが至る。特急電車と路線バスを乗り継げば、JRの乗車券、自由席特急券、バス代の総計は2950円。だが、直通バスなら500円で、その差は2450円と大きい。とりあえず東京駅のバス・ターミナルに向かった。

 バス乗り場に着いたところ、この日は、予約なしでバスに乗ろうとした人は4人。幸い、通路にしか置けないような巨大な荷物を持ち込む中国人はいなかった。
 無事、バスに乗ることができた。ただし、日によっては積み残しが出るそうだから、航空券を購入したら、早々にバスも予約しておいたほうがいいと思う。

 バスは京橋インターから首都高速に入り、三郷ジャンクションからは常磐道に、平日の下り線をすいすいと走る。千代田石岡インターからは一般道を走り、午前11時間半に茨城空港に着いた。
「茨城空港は遠い」というイメージがあるが、道が空いていたせいか成田空港に行くのとそれほど距離感の差はない。補助席だったので、ふつうの座席に比べると乗り心地は悪かったが、道が真っすぐで舗装もきっちりなされていたので、ラオスやボリビアで乗ったバスよりは楽だった。あるいは成田空港まで、ロングシートの通勤型電車で行くより楽かもしれない。

 離陸は13時55分の予定だったので、まずはレストランに入り、昼飯を食べながらチェックインの開始を待つ。茨城空港内のレストランは1軒。空港周辺には、レストランもコンビニもないので、空港内のレストランで昼飯を食べるしかない。昼食代は1000円を少し超えるくらい。東京駅でバスに乗る前に、コンビニで弁当など調達すればもっと安く上がったはずだが、朝、バタバタしていて買い損ねた。
 食後の缶コーヒーを飲みながら、チェックインの開始を待っていたのだが、一向に始まる気配がない。係員に聞くと、飛行機は上海周辺の濃霧のため4時間遅れだという。4時間も遅れるということは、ホテルに到着が遅れる旨の連絡をしなければいけないことに気が付いた。

 私は「楽天トラベル」でホテルの予約を入れたのだが、クレジットカード払いではなく現地決済で、予約金も不要だった。
 そのかわり「到着予定時刻に遅れるときはホテルにご連絡ください。連絡がない場合、予約が取り消される場合があります」旨の注意書きがあったのだ。最初から深夜帯の到着時間を指定すればよかったのだが、遅い時間の選択肢がなかった。
 メールでは連絡できないので、電話をする。公衆電話もあったが、国際電話代がもったいなかったのと、遅延は航空会社の問題なので、春秋航空に電話を借りる。ホテルのレセプションが英語を話せなかったので、春秋航空の職員に通訳してもらって、到着時刻の変更を伝えた。春秋航空の空港事務所は、一見田舎の役場のような雰囲気だったが、親切に対応してくれた。

 次に気になったのが食事のことだ。4時間の遅延ということは、出発は午後6時頃。格安エアラインの機内では、既存のエアラインのような機内食はない。あってもカップ麺やサンドイッチなど簡単なもので、安くもない。「乗る前に食べるか買っておいたほうが、おいしいものにありつける」と思ったのだ。
 かくしてレストランに向かったのだが、午後4時でオーダー・ストップされていた。茨城空港は夜発着の便がないので、レストランの店じまいも早いようだ。レジ係のおばさんは「カレーなら出せますが……」と言ってくれたが、まだそれほど腹は空いていなかったので、持ち帰り用の寿司を買う。これも結構な値段で、昼飯とあわせて茨城空港のレストランで2000円以上使ってしまう。格安エアラインに乗るときは、コンビニで食料を調達しておかなければいけないと、反省する。

 午後4時半すぎからチェックインが始まり、午後5時30分頃、搭乗が始まる。辺りは真っ暗になっていた。搭乗口といってもエプロン(渡り廊下)も、連絡バスもなく、空港建物の出入り口から飛行機までトコトコ歩いていって、タラップを登って飛行機に乗り込むのだ。
 まあ、歩くといっても、出入り口から300~400メートルほどの場所に飛行機は停まっている。1日数便しか就航していないので、空港ビルの搭乗口付近に駐機できるようだ。

 機内に乗り込んでみると、間隔の詰まった座席が目に飛び込んできた。ふつうの飛行機のシート・ピッチが約90センチのところ、71センチしかないそうだ。そして、背もたれがリクライニングしないとのこと。

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 腰掛けてみると、少し圧迫感があった。まあ、安いのだから仕方ないが……。
 飛行機は、客の搭乗が終わるとすぐに離陸した。成田や羽田のように長々と滑走路に向かって走行したり、離陸の順番待ちをすることもない。シンプル・イズ・ベスト。皮肉かもしれないが、茨城空港もなかなか快適だ。
 機内で新聞を読もうかと思ったのだが、前の座席につかえて読むことができなかった。そのうち、飛行機の「安全のしおり」が目の前の小さなホルダーに差し込まれていることに気が付く。ふつうの飛行機は膝の前辺りにあるのだがと思って目を落とすと、ポケットがない。機内誌もない。その部分はすっきりとプラスチックの背板があるだけだ。
 ふつうの飛行機はポケットに機内誌、免税品のカタログ、安全のしおり、エチケット袋などが詰められて3~5センチくらいの厚みがある。それらをそっくり外して、膝元のスペースをつくり、その分席の間隔を詰めているわけだ。シートの厚みも、ふつうの飛行機に比べると若干薄いような気がする。
 私は身長178センチだが、腰を背もたれにピタっと着けて座ると、膝元には5センチほどの余裕ができた。腰から膝までの寸法はだいたい身長の4分の1だから、逆算すればあと20センチ身長が高くても、この座席に収まるということだ。座席がリクライニングしないのも、スペースがギリギリだからだろう。アジア人で身長198センチを超える人は100人に1人もいないだろう。シートピッチはわずか71センチだが、巧みな計算で設計されているようだ。

 とはいえ、座席が倒れないのは辛い。背もたれは少し後ろに傾斜しているから、JRの普通列車ボックスシートに比べれば楽だが、体勢を変えられない分、窮屈だ。
 前席の背面にピタっと膝を着けて、尻を前に出しすとリクライニングと同じような姿勢になるが、前の人が動くたびに膝に衝撃が伝わる。結局は、腰を引いてまっすぐに座るのが快適だと思った。
 それからシートピッチが狭いということは、窓側の人がトイレに立つ場合、通路側の人たちもいったん通路に出るしかない。しかし、そこは乗客もよく心得ているようで、上海までの3時間で、トイレに行く人がほとんどいなかった。機内食や飲み物が出ないこともあるだろう。「皆が迷惑するから、トイレは出発前に済ませて、機内では我慢しましょうね」との“暗黙の了解”ができているのだろうか。
 機内にはモニターも何もないので、やることがない。持参のミニ・ノート・パソコンで、この旅行記の執筆を始めて時間を潰した(ちなみにA4やB5サイズのノート・パソコンでは、テーブル周りの空間が狭くて、ディスプレイが充分に開かないと思う)が、あとは本を読むくらいだ。

 時間がたっぷりあったので、隣席にいた50代の日本人男性にお話を伺った。
「いや、もう、安いじゃないですか、この春秋航空って。面白そうなのでちょっと乗ってみようかと。上海、蘇州、南京、杭州を1週間かけて周遊します」
 彼は千葉県に住むエンジニアで、気軽な一人旅のようだ。
 考えてみるに、飛行機に乗っている3時間だけ我慢をすれば、国内旅行よりも安く海外旅行ができるのだ。住宅ローンや子供の教育費で小遣いが圧迫されている中年男性にとって、格安エアラインはなかなかありがたい存在なのかもしれない。片道4000円や8000円の激安チケットを取るのは、根気が必要だが……。

 やがて、機内食や飲み物の販売カートが通りすぎる。サンドイッチ25元(310円)、自動加熱式インスタントライス42元(530円)と、値段は高め。注文する人はあまりいなかった。私は空港のレストランで買った寿司を食べた。
 ずっと同じ姿勢を保って疲れてきたので、ペットボトルのお茶(手荷物検査を終えてから、自販機で買った)を飲んで、上半身のストレッチをする。エコノミークラス症候群になりやすい環境なので、気をつけないといけない。

 機内は静かだ。免税品の販売もないので、客室乗務員もあまり機内を歩き回らない。皆、おとなしく席に座って、ひたひたと目的地を目指す。
 そういえば飛行機の出発が大幅に遅れても、文句を言う人はほとんどいなかった。「安いから仕方がない」といった“割り切り”や“悟り”が、乗客の間で共有されているようだ。
 上海が近付いてくると、客室乗務員がカートでゴミの回収を始める。が、そもそも機内で飲食する人がほとんどいないので、回収されるゴミは少ない。

 出発から3時間半で、飛行機は上海浦東国際空港に着陸した。外を見ると濃霧で「これなら飛行機が遅れても仕方がないね」と納得した。乗客は、タラップを降りると淡々とバスに乗り込み、空港ビルに向かった。

 この後、バスと地下鉄を乗り継いでホテルにたどりついた。次の茨城便まで中2日あったので現地でブラブラしていた。

 2日目は、午前中に郊外の周荘に行くバスツアーの予約をし、午後は高速鉄道に乗って南京に向かった。鉄道の発展が目覚しいと聞いたので、試乗してみたのだ。ドイツのICE型の電車と日本の新幹線型の車両が走っていたが、私はICEタイプの車両に乗った。上海から南京まで、専用の線路を走っていて、最高速度は330キロ以上。新しい分だけ日本の新幹線よりも揺れが少なく、快適だった。
 南京ではとくに観光の予定はなかったが、南京駅前には玄武湖という湖があり、湖面越しのビル街に夕陽が沈みゆく光景が美しかった。

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 復路は在来線の快速列車に乗った。硬座(2等座席車)に乗ったのは、久しぶりだった。高速鉄道の車内は先進国の風情だったが、快速列車の硬座には昔の中国の臭いがただよっている。大きな荷物、ゴミの落ちた床、座席指定なしで乗り込んだ私に席を詰めて座らせてくれる人情……。

 3日目は、周荘という水郷の街にバスツアーで出かける。古い町並み、運河、眼鏡のような石橋など明代以前の建築物が遺されている。そこは昔にタイムスリップしたような、なつかしい風景がひろがっていた。12月初旬ということもあり、日本人観光客は見かけなかったが、上海から日帰りで行くにはいいところだと思う。

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(周荘の運河にて)

 夜は、中国独自に発展したサーカス、上海雑技団を観賞した。23年前、はじめて上海に来たとき(神戸から船に乗って丸2日かけてたどりついた)、人間業とは思えない曲芸に感激したものだ。しかし、レジャーが多様化した現代の中国では衰退しているようで、観客もまばら。曲芸のレベルも下がっていた。
 そして外灘から浦東地区の夜景を眺め、ホテルに戻った。

 4日目の朝、午前5時に起床した私は、地下鉄で浦東空港に向かった。茨城空港行き飛行機の出発は午前8時45分。7時30分頃空港に到着し、無事チェックインをした。
 この時、うしろに何十人もの乗客が並んでいたので油断をしたのかもしれない。朝5時起きで頭が朦朧としていたせいかもしれない。とんでもない大失態をやらかしてしまった。
 お土産を買い、出国手続きをし、搭乗口に行った時、閉め切られていたのだ。

 時計を見ると8時40分。格安エアラインは連絡バスで駐機スペースに向かうため、はやめに搭乗口で待機しなくてはいけない。そのことが頭から吹っ飛んでいたのだ。
 春秋航空は何度かファイナル・コールをし、私の名前をアナウンスしたそうだが、携帯用デジタル・オーディオで音楽を聴いていたので、それも聞こえなかった。
 これは、完全にアウトだ。「海外旅行歴25年、訪問国数が60を超える旅行オタクが何をやっているんだか?」と、ため息をつく。
 出国手続きを取り消し、空港税などの払い戻し手続きをし(航空券代はもちろん返ってこない)、既存エアラインの中国国際航空で約3万5000円のチケットを買い直して、成田空港行きの便に乗った。道案内をしてくれた、春秋航空の中国人職員は、とても親切だったのだが。

 格安旅行のはずが、ふつうの旅行よりも高くついてしまった。とほほ……。

 この手記を読んでくださった皆様に、最後にアドヴァイス。
①搭乗手続きを終えたら、土産など買わずに、すぐに搭乗口へ行きましょう。
②空港で、アナウンスが聞こえないような、音楽の聴き方はやめましょう。                 
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プロフィール

浅井潤水(じゅんすい)

Author:浅井潤水(じゅんすい)
大阪生まれ、5歳より18歳まで奈良で育つ。大阪の大学を卒業後、東京の出版社に就職。総合月刊誌、写真週刊誌、ワンテーマ・マガジン、新書、文庫などの編集に従事した後、現在は知財・契約管理部門勤務。
おもな担当書に、下川裕治『格安エアラインで個人旅行が変わる!』、鳥塚亮『いすみ鉄道公募社長 危機を乗り越える夢と戦略』、松尾貴史『ネタになる統計データ』、小篠綾子『コシノ洋装店ものがたり』、吉田友和『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』、坂井優基『現役機長が答える飛行機の大謎・小謎』、三浦展・菊入みゆき『職場で“モテる”社会学』、碓井孝介『偏差値35から公認会計士に受かる記憶術』、『「男はつらいよ」寅さんロケ地ガイド』、週刊「昭和の鉄道模型をつくる」、ジミー大西『トーテンくんのオーケストラ』などがある。

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